マークス・イムホーフ監督作「みつばちの大地」("More than Honey" : 2012)[DVD]

人類の生存に欠かせぬ蜜蜂の生態と、世界中の蜜蜂を襲う謎の死の原因を探る旅の行方を描くドキュメンタリー作品。

祖父の代まで一家で養蜂を生業としてきた監督イムホーフは、数年前から世界中で蜜蜂が死に始めた原因を探るべく、世界の養蜂の拠点を巡る旅に出る。

カリフォルニア州のある大規模アーモンド農場にある養蜂会社では、巣箱4千個を扱い、1個を150ドルで売っている。カリフォルニアのアーモンド生産量は世界の90%を占めるという。アーモンドの様に大規模な集約生産品においては、全てが蜜蜂にかかっているといっても過言では無い。蜜蜂は自分が選んだ花に忠実で、一つの種類の花で仕事を終えるまで、別の種類に移る事は無いという。

花の蜜は巣箱の中で待つ姉妹達に蜜に加工され、蜂蜜となり巣房という部屋に蓄えられる。蜜蜂はダンスと称される尻の振り方で、仲間達に花までの距離と方角を伝えている事が判っている。蜜蜂は自分の行動結果を予測した上で評価し、計画を立てていると推測されており、すなわち蜜蜂には意思決定能力があると言える。

蜜蜂は近親相姦を防ぐ為に、空中で交尾を行う。女王蜂は巣の中の5万匹の母親に当たり、一日に2千個の卵を産む。働き蜂は女王に餌を与え、女王が死ぬと新しい女王を育てるが、成長にはまる一ヶ月かかる。未受精卵はオスになり、受精卵がメスになる。メスは蛹から12日後に羽化し、働き蜂になる。オスの羽化は更に3日かかる。オスは結婚飛行に必要な力を蓄える為に、働き蜂に餌を食べさせてもらう。オスは空中で女王と出会う為に、毎日午後2時頃出発する。女王に出会えなかったオスは秋には殺されてしまう。冬になると食べるだけの役立たずになるからである。

新しい女王を必要とする蜜蜂は女王専用の巣房を作る。元の女王は新しい女王が生まれる前に年長のハチを連れて出て行く。巣分かれをし、若い世代に巣を明け渡す為である。こうしてコロニーは2つになる。蜜蜂のブリーダーはこの過程を人工的に操作する。子孫を生む女王がいなければコロニーの蜜蜂は数週間で全滅する。ブリーダーが操作する事で、女王を大量に生産し、働き蜂はそれをせっせと育てる。最初に蛹から羽化した女王は他の女王を殺してしまう為、通常、コロニーに君臨する女王は一匹だけである。そこで女王が成長になる前に、ブリーダーが別のコロニーに移す必要がある。オスは女王との交尾の最中に死んでしまう。結婚飛行から戻った女王の貯精嚢には500万の精子が蓄えられている。精子はここで8年間生存できるという。

あるブリーダーは蜜蜂を2~3キロずつ箱詰めにして、数十カ国に出荷しており、女王は別に梱包される。植物の生産には常に新しいコロニーを輸入し続けねばならない。大規模なコロニーを所有する養蜂家は、1年がかりで全米各地に蜜蜂を提供している。しかし、大規模なコロニーには病原菌感染のリスクが生じる。代表的なものでは、蜜蜂の消化管に寄生するノゼマ病、巣を食い尽くすスムシ、幼虫を殺す腐蛆病がある。最も危険なのがミツバチヘギイタダニで、このダニは蜜蜂と同じ場所で孵化し、蛹や成虫に寄生すると、胴体の隙間から体液を吸い、バロア病を引き起こす。傷口にウィルスが入ると羽根に異常を来すのがその特徴である。

現在の養蜂家は蜂群崩壊症候群による蜜蜂の大量死に直面し、しばしば大損害を被る。長旅の後の蜜蜂には抗生物質入りの砂糖水が与えられる。もはや欧州、北米、中国の蜜蜂は薬無しでは生きられない様になっているという。

一つのコロニーの5万の小さな脳は一つの超個体を構成しており、これはひとつの家族と形容できる。蜜蜂達は成長に応じて、命令無しでそれぞれの役割を担うようになる。巣はそのシステムのひとつである。蜜蜂は触覚を通して匂いを感じ取る。触覚には6万の受容体があり、匂いはステレオで伝えられる。更に脚には味覚を感じる毛が生えている。こうして巣は情報が織りなす3次元マップとして認識される。

蜜蜂にとっては個の自由は全体の犠牲となる。一つのコロニーでは毎日2千匹が死に、2千匹が生まれる。養蜂家はコロニーを2つに分割し増やすが、損失を補う為に4分割する養蜂家も存在する。

かつて毛沢東は穀物を盗む雀の退治を命じ、それが原因で昆虫が大量に発生した。その結果、殺虫剤が大量に使われ、蜜蜂はその犠牲となった。アインシュタインは蜜蜂が絶滅すれば、その4年後に人類が滅びると予言した。中国では農薬で蜜蜂が全滅した地域が存在する。そこでは農家が手作業で受粉作業を行っている。

一匹の蜜蜂は4,5週間の一生で小匙一杯の蜂蜜を作る。幼虫を保護する為に、蜜蜂の体は毒物をろ過するようにできているが、一部の薬物は残留する。蜜蜂の大量死は病気や毒物、ストレス、それら全てが複合要因となっており、まさに人間の文明の為に死んでいると言える。人間は野生の蜂を従順な家畜に変えたのである。

人工的な交配により誕生したアフリカ化した蜜蜂(通称:殺人蜂)がブラジルの試験場から抜け出し、中米、メキシコと北上後、米国へ侵入して毎年死者を出している。この殺人蜂は生存力が高い為にダニにやられる事も無く、民家に住み着いて危害を及ぼすが、一方で化学薬品を含まない良い蜂蜜を作る。

オーストラリアはバロア病に汚染されていない最後の大陸とされている。ここでは人間の手が無くとも、蜜蜂は生存できる。研究者達はブラジルでの失敗を繰り返さぬように、細心の注意を払っており、実験対象の蜂は無人島に持ち込まれる。遺伝的多様性を保持する為に、交配で特別な性質を作るのでは無く、新しく変異したものを群に戻すという。繁殖している蜂と殺人蜂の妥協点を探っているのだそうだ。

 

 

やはり海外のドキュメンタリーは恐ろしく質が高い。とにかく映像がどれも目を見張るシーンばかりで驚くのだが、内容においてもかつて蜜蜂についてこれほど多くの知見を得る事は無かった。蜜蜂が食糧の生産に欠かせない存在である事は知っていたが、これほど大掛かりな養蜂のネットワークを基に成立しているとは思いもよらなかったし、何より養蜂そのものは、多分に人の手を要する作業であり、この人達がいなければ食糧の生産が立ち行かなると考えるとなかなか恐ろしい世界だ。目下、そんな蜜蜂達が世界的に危機に瀕しており、人類の食糧事情は薄氷を踏む様な笑い事では済まされない事態である。

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